あとは死ぬだけ
簡素なステージの上では、あの日引退したはずのロックシンガーが酒を片手に弾き語っている。私はそれを地べたに座って聞いている。芝生の広場には、私と同じような人がまばらに座っていた。
「君、もしかして内地の人?」
ぶちぶちと芝生をむしっていると、ふいに話し掛けられた。
「分かりますか」
「分かる分かる」
内地の人はあまり来ないから、と麦わら帽子を揺らして笑う。芝生の広場は海のすぐ反対側にある。彼は海に手を突っ込んで、深い青色のぶよぶよを取り上げた。数日前に海の中の何もかもが死んでから、海はすっかりこんな様子だ。
「どう思う?」
「駄目そうです」
彼の指の隙間から海の塊がぼたぼた落ちていく。海面にぶつかると、ぬたりとした汚い音が鳴る。ロックシンガーはトイレに行きたいと言ってステージを降りた。飲みすぎだぞ、との野次が飛んでいる。