逃避行
根っからの天の邪鬼でしたから、「ずっとそばにいてね」と言われた私がその日のうちに荷物をまとめて、すっかりそこから逃げ出してしまったのは仕方がないことだったんです。
あちらこちらで「そばにいてね」という呪詛にも似た契りは繰り返し唱えられて、私はそのたび逃げ出しました。逃げに逃げ、二度と踏めない土地を増やしに増やし続けた結果、私は今宇宙にいます。
さて、機体は間もなく名前も知らない星に着陸するでしょう。私以外の生命体が居ないことを願います。独りは寂しいですが、火星のあちこちを転々とする面倒臭さに比べれば随分マシです。