地産地消


軽度なカニバリズム表現があります。

 二つ上の兄がいきなり、「脳みそを食べてみたい」と言うので「やめた方がいいよ」と進言した。兄は「なんで」とむくれている。何でと聞かれたので「身内から犯罪者出したくないし」と理由を告げたが、得意気な顔の兄曰く、食べるのは自分の脳みそで、そこらの人を襲って脳を食べるつもりはないので安心して欲しいらしい。何を安心しろと言うのやら。
 兄が言っても聞かないのは昔からのことなので、手早く行動に移す。兄の頭を切って、台所の引き出しの中に入っていた小さじスプーンで脳を掬い取った。火を通すと縮みそうなのでそのまま出す。兄は何にでもポン酢醤油をかけるので、例に違わず、これもポン酢醤油で食べられてしまった。聞くに堪えない下手くそな食リポは、要約すると『不味くはないけど美味くもない』とのことだ。美味しくないのかよ。「何なんだよ」と悪態を付いたら「仕方ねえじゃん」と兄は不服そうだった。
 小さじスプーンはさっさと洗ってしまったし、傷跡も髪の毛で隠れたので、父にも母にも妹にも全くバレていないけれど問題がひとつある。兄の脳みそを掬い取る時、(多分ここなら大丈夫だろう)と少しだけ掬ってみたのだけれど、大丈夫じゃなかったらしい。やっぱり素人仕事は駄目なんだな、と反省した。
 そういう訳で、脳の大事な部分を失った兄は今日もまた「脳みそを食べてみたい」と繰り返すので、僕はその度に小さじスプーンで兄の脳を掬い取って、下手くそな食リポを聞き続けている。