電気人鳥は南極の夢を見るか?


 ペンギンを模したカメラを群れの中に置いて、ペンギンの生態を観察する調査チームに所属しているのですが、ちょっと困ったことになりました。カメラの回収班の話を聞くに、どうにもカメラは自分自身のことをペンギンだと勘違いしているらしいのです。
 基地に帰ってきた回収班が「大変だ」「ペンギンだ」などと口々に言っているので「ええっ? それは一体どういうことなんですか?」と聞こうとしたところ、彼らのうちの一人が持っているカバンの中から黒と白の塊が飛び出して、一目散に基地内を駆け抜けました。

 そういう訳で、我々調査チームの拠点である基地の最奥に位置する資料庫は、今現在ペンギン(だと思い込んでいるペンギン型のカメラ)に占拠されている次第です。日夜熱心に、「自分は今年で八歳になるコウテイペンギンである」「こんなところではなく、早く群れの中に帰らなければ」「海でたくさん魚を獲ったので、ヒナに餌を与えてあげたいのだけれど」と、翼をバタつかせては繰り返しそういったことを主張しています。念の為訂正しておくと、彼(もしくは彼女)のお腹の中には魚など一匹たりともおらず、彼(もしくは彼女)をペンギン型カメラたらしめる部品の数々で埋め尽くされています。

 ドアを開ければたちまちに鋭いクチバシの餌食になってしまうため、人間達はドアの上部にある丸い覗き窓から室内の様子を伺う他ありません。
 なんとまあ情けの無いこと。
 しかしあの鋭いクチバシの前では、幾ら天下の人間様とは言え為す術がないのです。仕方がありません。突かれると相当に痛いので。
 
 あのクチバシの魅惑のカーブを再現するために、何度も水族館に通い詰めて観察した甲斐がありました。昔っからの凝り性でしたから、たかがカメラとは言えクオリティには拘りました。お陰で本物のペンギン達にも怪しまれず接触できて、ありのままの彼らの撮影が出来たのです。そのせいで彼(もしくは彼女)が自分自身をペンギンだと勘違いしてしまう悲劇を招いたのだと言われれば、反論しようがありませんが。

 そういう訳で私は今、自分自身をペンギンだと思い込んでいるペンギン型カメラを説得する為のペンギンのヒナ型カメラを作っているところです。外見は申し分ない出来に仕上がりました。後は親を説得するペンギンのヒナの情報をインプットするだけです。
 はてさて、資料庫のドアが開くのはいつになることでしょうか。