ゴトウさんはいつ見ても公園にいる。
ベンチとか、花壇のそばとか、いる場所は日によって違う。けれど、たいてい公園にいて、座って雑誌を読んだり、何かを食べたりしている。
時々、何もせずぼーっとしている時があって、そういう時は話しかけないほうがいい、と同じクラスのユウキが言っていた。いつもただでさえ雑なのに、ああいう時は更に雑になるらしい。
そもそも、ゴトウさんの機嫌がいい時をよく知らないので、僕には違いが分からない。
小学校が終わって、放課後。
ランドセルのまま公園に寄ってみた。するとやっぱりゴトウさんがいた。今日はベンチじゃなくて、すべり台のそばの花壇の縁に座って、膝の上に雑誌を開いて読んでいる。ベンチのところは日陰になっているので、日が当たっている花壇のところにいるみたいに見えた。そばには、草餅が入ったプラスチックの容器が置いてある。まだ食べていないままだった。
いかにも暇そうに見えたので、僕は近付いて、聞いてみることにした。
「ゴトウさんって、無職なの」
「違う」
ゴトウさんは雑誌から目も上げず、即座に言い返してきた。そこだけやけに素早くて、僕は笑ってしまった。
「でも、昨日もいたよね」
「昨日は昨日」
「一昨日もいた」
僕がそう言うと、ゴトウさんはようやく雑誌から顔を上げて、じと、と見返してきた。
「おい」
「なに」
「細かいことばっか気にしてると、ろくな大人にならないよ」
「誤魔化した!」
僕はすぐに非難の声をあげた。あれは悪いオトナだよ、と同じクラスのみっちゃんが前に言っていて、それはつまりこのことだと、僕はすぐに思った。
「先に無職だなんて決めつけた方が悪いんだよ」
「無職じゃないなら、じゃあなんなの」
「さてねえ」
ゴトウさんは雑誌を閉じて、わざとらしく空を見上げた。
「前はもう少し別のことをやってたけど、色々あって、今はこうしてる」
「こうって?」
「留守番みたいなこと」
「公園の?」
「町の」
「なにそれ、よく分かんない」
「分かんなくていいこともあるんだよ。君みたいなのはまだ、宿題と明日学校に持って行く物のことだけ考えてりゃいいの」
結局これだ、と僕は思った。また誤魔化した。
「やっぱ無職なんじゃん」と僕が言うと、ゴトウさんは言い返さずに、肩を竦めた。面倒臭い時によくやるやつだ。
パリパリとプラスチックの容器を開ける音がして、ゴトウさんは草餅を1つ手に取った。2つある分のもう1つを黙って僕の方に差し出す。僕はそれを受け取りながら「ワイロだ」と言った。ゴトウさんは、黙って鼻を鳴らすだけだった。
僕は、そのまま草餅に齧り付く。すると、ゴトウさんはにやっと笑ってこっちを見てきた。
ゴトウさんは顔が怖いから、笑った顔も少し怖い。あんまり笑わないほうがいい、と僕は思う。みっちゃんは、もっと笑ったほうがいいのに、と、こないだ言っていた。
「なに」
僕はむっとしながら言う。
「知らない人から貰った物を、そんなほいほい食べるもんじゃないよ」
なんで、と僕は聞く。ゴトウさんは
「毒が入ってるかもしれないだろ」
僕はどきっとして固まって、思わず草餅を落としそうになる。
ゴトウさんはそれを見て、心底楽しそうに笑った。
草餅には、あんこがたっぷり詰まっていた。悔しいけれど、ちゃんと美味しかった。