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 人工血液ってどのメーカーが一番美味しいの?
 校則違反の色付きリップが塗られた唇から紡がれた言葉の意味が一瞬では理解出来なくて、呆けた自分の口からはアとウの中間みたいな中途半端な声が飛び出した。
 
 気まずくなって人工血液をずるずる吸い上げる。口の中に流れ込んでくる液体は美味しいとか不味いとかじゃなくて、ただ単に飲むべきだから飲んでいるだけ。だからメーカーごとの味の違いも特にある訳ではなくて、あるとするなら値段の違いくらいだ。
 
 そう伝えると同級生はつまらなそうに(実際に「つまんな」と言いながら)唇を尖らせる。
「毎日違うの飲んでるから、こだわりでもあるのかと思った」
「別に……家族がいろいろ買ってくるから、処理係になってるだけ」
「あっそう」肩をすくめる。「人間とおんなじだね」
 吸血鬼なのに、と呟く声に棘がある。失礼だと指摘する前に同級生は続けて口を開く。
「吸血鬼なのに人間と同じなの、ちょっとガッカリしたけど、なんか安心した」
 同級生は目を細めてにんまり笑う。当たり前のことだけれど、その口から覗く八重歯は短く、丸まっていた。